そして、石は
ひつじになる。
そして、石はひつじになる。

石と共に時を巻き戻してみると
足元の景色がまったく違うものに見えてきます。

石には名前があり生まれもそれぞれ。

「君たちはどこから来たんだい?」

彼らの結晶をみながら、つい問いかけてしまう。

目指すのは、いまから約三億年前の世界。

地質学者の浦田健作先生と大地の歴史を遡る物語。

※「そして、いしはひつじになる。」の続きの物語です。専門用語が多いので、リンク読後に読むのがおすすめです。
平尾台の台地をつくっている石灰岩。柔らかい白い結晶は大理石の一種。

光を求めて成長した珊瑚礁

平尾台の石灰岩。その正体は、かつて海に生きていた生き物たちの積み重なりです。珊瑚や貝殻などの死骸が長い年月をかけて堆積し、やがて岩になりました。始まりは、フィリピンプレートの上にできた海底火山。その上に珊瑚礁が少しずつ成長し、やがて厚さ1000メートルほどにもなる巨大な石灰岩の層がつくられていきました。

ところが、この海底はゆっくりと沈んでいきます。海洋プレートは黒っぽい玄武岩でできていて重く、大陸プレートは白い花崗岩で軽いためです。それでも珊瑚は生き続けました。なぜなら、海底の沈む速さと同じくらいの速さで、珊瑚礁が上へと成長していったからです。まるで木が光を求めて伸びていくように。

珊瑚は、光合成をする海藻と共生しています。そのため、光が届く浅い海でしか生きられません。水深にしておよそ50メートルほど。それより深くなると、珊瑚は成長できなくなります。もし海底火山が一気に沈んでしまえば、珊瑚礁はそこで終わっていたでしょう。
しかし平尾台の石灰岩が生まれた場所では、海底は驚くほどゆっくりと沈み続けていました。こうして珊瑚礁は、海底の沈降に追いつくように成長を続けます。その期間は、なんと約8000万年。これほど長いあいだ珊瑚が生き続けたということは、この場所がずっと水温20〜25度ほどの海域を移動していたことを意味します。もし北へ大きく移動していたら、途中で珊瑚礁は成長できなくなっていたはずです。

もう一つ、重要な条件があります。それは海が濁らないこと。海が濁ると光が届かなくなり、珊瑚は生きられません。珊瑚が育つのは、透明で澄んだ海だけです。たとえば沖縄には珊瑚礁がありますが、同じ緯度の上海や香港の海にはほとんど見られません。 揚子江や黄河が大量の泥を海に運び込み、海底を覆ってしまうためです。

実は、太平洋の真ん中には砂はほとんどありません。海の底といえば砂を思い浮かべるかもしれませんが、砂や泥があるのは陸の近くだけです。深い海底では、プランクトンの殻が静かに積み重なっています。星砂を思い出してみてください。あれも生き物の殻です。

炭酸カルシウムでできた殻や、ケイ素でできた殻が海を漂い、やがてゆっくりと沈んでいく。その堆積の速さは、1年にわずか0.1ミリほど。しかも水深5000メートルの海底には海流がほとんどありません。 一度積もると、動くことはないのです。

海は地球表面の7割を占めています。そしてその海底の多くは、実はこうした生き物の殻でできているのです。

珊瑚礁や生物の骨に含まれるケイ素が積み重なったものが石灰岩のはじまり。

結晶石灰岩は珊瑚の集まり。

地下で静かに固まったマグマ

広谷周辺には、花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)**と呼ばれる岩石があります(地質図のピンク色の部分)。平尾台をつくっている石灰岩のさらに下、地下深くから上がってきたマグマが冷えて固まったものです。マグマとは、岩石が高温で溶けて液体のようになった状態のこと。地球の内部は基本的には固体ですが、場所によって温度が高くなったり圧力が弱くなったりすると、岩石の一部が溶けてマグマになります。

石灰岩と花崗岩によって新しい鉱物が生まれた。ガーネットと長石

溶けた岩石は、固い岩石よりも軽くなります。 そのためマグマは、周囲の岩のすき間を通りながら、ゆっくりと上へ上へと移動していきます。 ビニール袋に入れた水に穴を開けると水が外へ流れ出るように、地球の内部でも、液体は圧力の弱い方向へ動こうとするのです。

地下で生まれたマグマがそのまま地表まで到達すると、火山になります。阿蘇山や桜島は、マグマが地表に噴き出し、急速に冷えて固まることでできた山です。こうしてできた岩石を溶岩といいます。

しかし、すべてのマグマが火山になるわけではありません。地下で上昇してきたマグマの多くは、地表まで届かず、途中で止まります。
周囲の冷たい岩石に囲まれながら、何万年、何十万年という長い時間をかけてゆっくり冷えて固まっていくのです。こうして地下深くで固まった岩石を深成岩(しんせいがん)といいます。平尾台の花崗閃緑岩も、この深成岩の一つです。

広谷・青龍窟周辺の地質(『青龍窟ハンドブック』より/監修執筆・浦田健作)

私たちの足元は熱でできている。

 

石灰岩にはマグマの通り道が残っている。

では、平尾台にはかつて火山があったのでしょうか。もし火山が存在していたなら、石灰岩と花崗閃緑岩の上には、かつて約5000メートルもの岩石が積み重なっていたことになります。それが1億年ほどの時間の中で削り取られた計算になります。マッターホルン級の山が丸ごと消えてしまうほどの規模です。

けれど、平尾台周辺では火山岩がほとんど見つかっていません。マグマは途中まで上昇したものの、噴火することなく地下で固まった可能性も考えられています。平尾台の大地は、まだすべてが解き明かされたわけではありません。
長い時間の中でつくられたこの景色には、いまも地球の歴史の謎が残されているのです。

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