平尾台の一角に、小さな葡萄畑と静かな醸造所があります。「ドメーヌ・ル・ミヤキ」を営む宮木さんは、長年ソムリエとして後進の育成にも携わってきた、お酒の道のエキスパート。目の前の一盃を口に含んだとき、自分自身がどう感じるか。お酒と、そして生き方そのものに通じる深いお話に耳を傾けました。

自分の舌を信じて「好きと言えたら」
「どうしてもワインとなると難しく考えてしまうでしょう。でもね、ワインというのは頭で飲むものではなくて、口で飲むものなんです」
そう言って宮木さんは優しく微笑みます。
「これは何千円するから美味しいはずだとか、評価が高いから素晴らしいんだとか、情報で判断してしまうと本当の良さが見えなくなってしまう。『私はこれが好き』『僕はこれが好き』。誰が何を言おうと、自分の口に合って好きだと思えたら、もうそれでいいと思っています。」
「好き」という思いが芽生えると、自ずと興味が湧き、もっと味わってみたくなる。そうして何杯か試していくうちに、自分がどんな味わいが愛おしいのか、少しずつ見えてくるのだそうです。
「最初はコンビニで買った1本でも構わないんです。飲んでみて『柔らかくて飲みやすいな』とか『しっかりした渋みがあって好きだな』とか。自分の好みが分かってはじめて、『じゃあこれはどういうブドウなんだろう』『どこの国で作られたのかな』と深めていけばいい。まずは自分の舌で感じた『好き』を、大切にしてほしいです」


サン・テミリオンの鍾乳洞から、平尾台の開墾へ
ミヤキさんが平尾台で葡萄作りを始めた背景には、かつて訪れたヨーロッパでの忘れられない情景がありました。
ソムリエ仲間とともに旅したフランス・ボルドーのサン・テミリオン。小高い丘一面に広がる葡萄畑と、その中央に佇む古い教会。そして、粘土質と石灰質が層をなす地下深くの洞窟に降り立ったときのことです。ひんやりとした静寂の中、一定の温度に保たれた地下道には、作られたワインたちが整然と寝かされていました。
「ここは平尾台の風景と似ているな」その小さな予感が胸の奥に灯ってから10年。宮木さんは平尾台の地で、理想の場所を探し始めます。
当時、荒れ果てて山となっていた土地を自らの手で切り拓く作業からスタートしました。木々をかき分け、少しずつ斜面を整え、苗木を植える。葡萄の樹は、大切に育てれば100年近く生き続けるといいます。毎年種をまくお米や野菜とは異なり、一度結んだ縁とともに何十年も季節を重ねていく。そうして20年近い歳月をかけて、平尾台の風土とともに歩む畑が作られていきました。



栄養がないからこそ、根は深みを目指す
葡萄の生命力について尋ねると、宮木さんは植物のたくましい原理を教えてくれました。
「ヨーロッパの土地というのは、日本ほど土が肥えていないんです。だからヨーロッパの葡萄は、栄養や水分を求めて自分の根をどんどん深く、深く伸ばしていく。時には何メートルも地下深くまで根を張り巡らせます」
反対に、最初から表面の土に栄養や水がたっぷりあると、根は苦労して下へ伸びようとせず、表層にばかり広がってしまうのだそうです。それでは、強い陽射しや寒さが来たときに立ち打ちができません。
「人間と一緒ですよ。目の前にご馳走があれば探さないけれど、無ければ自分から探しに行くでしょう。厳しく見える土地だからこそ、葡萄は根を深く張り、その土地ならではの力強さを蓄えていくんです。人間は余計な手出しをしすぎず、根が力強く伸びていくのを見守ってあげるのが一番なんですよ」
近年は夏の過酷な猛暑など、気候の変化という大きな壁にも直面しています。それでも、平尾台の環境と向き合いながら、樹が自ら生きようとする力を信じ、宮木さんは日々葡萄と対話を続けています。



画面越しにどれほど言葉や知識を集めても、実際にその場所に立ち、風を感じ、自分の口で味わうひとくちの感動には敵いません。
世間の評価や誰かの言葉に惑わされることなく、自分の体が素直に感じた「好き」を、ひとつずつ手繰り寄せていく。平尾台の地にしっかりと根を張る葡萄の樹と、ミヤキさんの穏やかな笑顔は、私たちが本来持っているはずの豊かな味わいをそっと思い出させてくれます。
あなただけの「好き」に出会う一杯を
自分の身体で確かめに行きませんか?
ドメーヌ・ル・ミヤキ
日本有数のカルスト台地・平尾台の特殊な土壌と景観のもと、ブドウの栽培からワインの醸造・販売までを行うワイナリー。
- 主な製品: 平尾台ワイン(ピノ・ノワール / カベルネ・ソーヴィニヨン / メルロー / 鴛海〔シャルドネ・甲州〕など)
- 醸造所: 〒803-0180 福岡県北九州市小倉南区平尾台1丁目2-61
- TEL: 093-952-5410(受付 9:00〜17:00)
- 公式WEBサイト: https://dmiyaki.com/